壮大なるゼロ
どこかのレストランだったか料理店だったかのラジオのCMに、
『グルメを語る次元が違うのよ!』
というのがあった。ちょっとかっこいい言葉だが具体的に何がどうなのかはさっぱり分からない。『次元が違うってどういうこと?』ときいてみても、レストランの関係者もコピーを書いた本人も答えられまい。結局、この店は具体的なセールスポイントが何もないということを告白しているわけだ。
少し古いが、現在でもカラオケなどでよく歌われる『昴(すばる)』という歌がある。『目を閉じて何も見えず、悲しくて目を開ければ、荒野に向かう道より他に見えるものはなし。ああ、さんざめく運命の星たちよ、せめて密やかにこの身を照らせよ。我は行く、心の命ずるままに。我は行く、はるか昴よ』という歌詞である。
荒野とか運命とか、スケールが大きく華麗な言葉をちりばめて歌う者のヒロイズムをくすぐる。しかしこの歌には具体的なものは何もない。だから誰もがこの歌を自分の立場に引き付けて解釈することができる。それがこの歌の仕掛であり人気の秘密であろう。私はこの歌に自らを虚構のヒロイズムで飾るしかない現代の組織内人間・企業戦士のマスターベーションを感じる。
いかにも気宇壮大なことばに出会ったら、その具体的な中身を検討してみるとよい。中身の曖昧なことばや多義的なことばは、無意味であるばかりではなく、情緒に訴えかける危険なことばでもあるのだ。最近、そういう言葉が増えているような気がする。
日本語の風景
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