2023年1月30日月曜日

               廃村の人々


 一家五人で登山しようと、ある山の麓の某村でキャンプした。交通の不便なこの村は、十年ほど前から定住者がなくなり、廃村状態になっている。ところが好運なことに私たちがこの村に入った八月七日は年に何回かの村の祭日で、元の住人が全員この村に帰っていた。キャンプ地を捜していた私たちは、断われることを半ば覚悟しながら寺の境内を使わせてもらいたいと区長さんに頼んでみた。

 するとその依頼に対して帰ってきた答えは驚くほど好意的だった。『そこはマムシが多いし、昼になれば直射日光を受けて暑いから、近くの神社の境内の方がいいだろう。そこなら日陰だしテントも張り易いだろうから。』というのである。そして神社の隣の人は自分の家の水道や便所を使いなさい言って、便所にトイレットペーパーを補給してくれた。

 また、村で一軒だけ電話がつながったままになっているという別の家の人は、『もし必要なら自分の家の電話を使ってもいい。電話の場所が分かるように家の電気をつけたままにしておいてあげよう。』と言ってくれた。 全く見ず知らずの人間にこれほど親切にしてくれる人々がいようとは、考えてみたこともなかった。この村の人々は最近まで古い生活習慣を守ってきたようだが、昔の日本人は誰もがこういう親切な応対をしていたのだろうか。それともこの村が山の中に隔絶していた村だったために、人懐かしい気持ちで来客を歓迎する風習があったのだろうか。

 いずれにしても、この体験は私に好意と善意をもって他人と交わることのうれしさ、素晴らしさを教えてくれたのだった。

五人と一匹

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