芸術って何だ
私たちは普通、言葉は何かの具体的な物や概念につけられた名前だと考えている。だとすれば『芸術』という言葉に対応する実体は何だろうか。私は以前からそれを考えてきたが、考えれば考えるほど分からなくなる。そもそも『芸術』に実体はあるのだろうか。
英語で芸術はARTというが、ARTには『技術』という意味もある。むしろARTとは本来『技術』のことで、それが『芸術』という言葉で表されるような独特の領域を表すようになったのは英語圏でもかなり新しいことらしい。それまではARTIST自身が自分のことを『技術家』または『職人』と考えていたのではないかと思うのだ。
そう考えれば納得できることが多い。たとえばダ・ビンチのスケッチにみられる見事な人体のバランスや、古典派の画家が描くビロードのリアルな質感などは驚くべき技術である。印象派の画家の美しい色彩も、写真が発達した今日では何でもないが、当時としては賛嘆すべき技術だったに違いない。また、ドガが踊り子の姿をカンバスに定着させるために、当時発明された写真機を利用したという逸話もこの観点からすれば納得できる。
技術には目的がある。絵画の領域でも、肖像画には肖像画の、壁画には壁画の目的があったのだろう。それがむしろ健全な『芸術』の姿なのではあるまいか。ところが『芸術のための芸術』といった主張が幅をきかせ、私たちも『芸術』とは実用とは無縁の何か高尚な実体だと思い込んだ。これが誤りなのだ。
私はことさら『芸術』を貶めるつもりはないが、無意味に崇拝しようとも思わない。
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