オーム貝
冬微光 化石の貝の 覚めぬほど 水尾
私の部屋の本棚の上に、直径十数センチのオーム貝の殻がある。鮮やかな茶色の縞模様のある白いつややかな貝殻で、何年か前に観光地の売店で買って来たものだ。
さてこのオーム貝、一見何の変哲もない貝に見えるが、実は、今から七千万年前、恐竜たちと共に絶滅したアンモナイトの仲間だそうだ。この種類の特徴は貝殻の内部に空気の入った浮力室があって水中を自由に泳ぎ回れることである。オーム貝はこういうアンモナイトの特徴を伝えているので『生きた化石』とも呼ばれており、現存の生物で言えば、貝よりもタコに近いのだそうである。
今は冬。そして今日は今にも雪の降りそうな曇り空。本棚の上のオーム貝の殻には窓ごしのごく淡い光が射しているだけだ。しかし日本海式気候のこの地方の冬の天気は変わりやすく、晴れと曇りと雪とが、不規則に、目まぐるしく変わる。そのたびに貝殻に射す光と陰のさまも変わる。ところが、その目まぐるしい変化をも知らぬがごとく、オーム貝の殻はひっそりと本棚の上にある。
思えば、本棚の上の貝殻をよぎるこの光陰の流れは、二億年以上を生きたアンモナイトの時代と、その後七千万年を生き延びてきたオーム貝の時代の、気の遠くなるような長い時間を象徴しているようではないか。この貝が何年前まで生きて海を泳いでいたのかは知らないが、今では死してその悠久の時の流れに加わったのだと思うと、何か宇宙の神秘に触れたような気さえするのである。
生命の四季
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