2023年1月29日日曜日

              時の流れに


 私は昭和二十四年生まれである。ものごころついたときはもう昭和三十年で、戦争は私が生まれるずっと以前の、遠い昔のことだと思っていた。こどもにとって十年という年月は永遠にも近い時間に思われたのである。

 私が大学に入った頃、『見ていてください、遥かな父さん、私はあなたの娘です。いくさ知らずに二十歳になって、あしたお嫁に、お嫁に行くの。』という歌が流行った。

 この歌の女性は私よりほんの少し年上の、しかし、私とほとんど同世代の女性である。その女性が出征兵士の娘であり得るということは私にとって衝撃的な発見だった。私は戦争と断絶した世代だと思いこんでいたのに、その時点ではもう戦争体験世代の方に近くなっていたのだ。

 たいていの人にとって、二十代前半までは時がゆっくり流れるが、それ以後は瞬く間だという。私の場合も同様であった。私が物心ついてからあの歌を聞くまでの二十年は長かったが、あの歌を聞いてからの二十年はほんの一瞬のうちに過ぎた。私の心の中には相変わらずあの歌が生きているのに、もうあの歌の女性は中年になり、そのこどもがお嫁にいく年を迎えている。この間に私も人生の折返し点を通り過ぎた。

 私は今高校一年生を受け持っているが、彼らは私が二十九才の年に生まれたこどもたちだ。私の子供の世代である。私は、就職した頃、生徒達を自分の同世代の人間として意識し、今まで惰性のようにそれを引きずってきた。今、その意識を切り替えねばならないと思うと、いろんな意味で辛い思いがする。

ああ、中年

  ああ、中年  おとなの世界  知らぬ間の春  雨にぬれた朝  

  草いきれと煙のにおい  時の流れに  すさまじき思い

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