2023年1月29日日曜日

               おとなの世界


 私は小さい頃、おとなの世界というものは一部の隙もない完璧なものだと思いこんでいた。おとなは経済的にも自立し、すべての事を見通し、必要なことは何でもできる力を持っていると思っていた。

 そういう、自分達とは全く隔絶した立派なおとなたちの世界にやがて自分も入って行くということが、何か非現実的なことに思われた。自分にそんなことが可能だろうかと考えて、時には謙虚な気持ちになり、時には恐怖感にさいなまれた。が、今振り返ってみると、そういうふうにおとなの世界に全幅の信頼を持っていられたことは、私にとって幸いだったとつくづく思う。

 しかし、もちろん実際にはおとなの世界はそれほど立派なものではなかった。気がついてみると私もいつしかおとなになっていた。私はこどもの世界からけじめもなくおとなの世界へ入ったが、私の周囲の人々を見ても似たりよったりだ。私もたいして成長していないが周りの人々がそう立派だとも思わない。小さい頃持っていたおとなの世界の輝かしいイメージはいつしか消え失せていた。

 それにしても、今のこどもたちはおとなの世界をどう見ているのだろうか。おとなの世界もたいしたことはないと、初めからしらけた目で見ているような気がする。あるいは、おとなの世界は汚い世界だと軽蔑の眼差しで見ているのだろうか。もしそうだとすれば、それはこどもたちにとって不幸なことだ。おとなは多少やせ我慢をしても、こどもたちの近寄り難い立派なものだというイメージを与えていたいと思う。

ああ、中年

  ああ、中年  おとなの世界  知らぬ間の春  雨にぬれた朝  

  草いきれと煙のにおい  時の流れに  すさまじき思い 

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